2013年10月22日火曜日

第21回日本山岳耐久レース(前編)

またとない晴天となった第21回日本山岳耐久レース。
またの名を長谷川恒夫CUP。通称ハセツネ。

2時間の電車移動を終え、武蔵五日市駅を降りると、会場に向かう道は暖かい陽気。
そのせいかレース直前の緊張感はなく、どことなく穏やかな気持ちになれた。
緩やかに登るこの道を歩きながら、この日まで自分がやってきたことをぼんやりと思い返していた。

■2012年ハセツネ

10時間46分
自己ベストを45分更新。
初めてのサブ11。

もうこれ以上のタイムは自分の能力では出せないだろうと思った。
今まで11時間中盤を行ったり来たりしていた自分が全力を振り絞って出したタイムだったから。
けど、同時にこうも思った。

「サブ10を達成する。」

サブ10とは、ハセツネのコース71.5km、累積標高4,500mを10時間以内で完走すること。
例年、参加者2,200人のうち、上位3~4%のランナーがゴールするタイムである。

これは出来る出来ないの話ではなく、
サブ10まであと47分という位置まで近づいて初めて「サブ10の挑戦権」を
手にしたような気がしたから。
権利があるなら思い切ってぶつかって行くしかない。

ゴールして早々、サブ10を宣言した。
何の勝算もなく、気持ちだけで。

■鍛錬の日々

サブ10は、気持ちだけでは走れない。
だから、自分が今足りないことを洗い出し、課題に取り組んだ。

1)登り克服
これは永遠のテーマ。克服するには登るしかない。
走行距離は600kmを踏んでいるものの、トレイルは練習全体の2割くらいしか走れていなかったので、ハセツネ直後から練習の場を鎌倉トレイルに変更した。これなら毎日トレイルを走れる。
また、負荷に耐える力をつけるために普段の練習でも2リットルの水を入れたパックを背負った。

2)更なる全身持久力の強化
言い換えると長時間高いレベルで活動を続ける力。
今までの100マイルレースを通して全身持久力はある程度持ってはいると思っているが、 高い出力を維持するにはまだ課題があると思っていた。

全身持久力は最大酸素摂取量が関係している。
最大酸素摂取量とは、1分間に取り込まれる酸素の最大量。 全身持久力を強化するには酸素摂取量の高い、つまり強度の高い練習をおこなう必要がある。
ペース走主体の練習方法を見直し、坂ダッシュ等短期的に自分を追い込むメニューを取り入れた。

3)体脂肪削減
体重64kg、体脂肪率は12~15%。
自分にとって好きなものを好きなだけ食べることは、ある意味聖域。
多くのアスリートが10%を切っている中では脂肪が多い方である。
「食事は活力だ」なんて言い聞かせながら自由奔放に食べて来たが、仮に体脂肪を5%落とすことが出来たら体重は3kg強減ることになる。軽量は魅力。走る上で体重は軽い方がいい。

そこで無理のない範囲で6月から食事制限開始。夕飯のご飯を3杯から1杯に減らした。
体脂肪を5~8%台まで落とすことが出来た。

やれることは沢山あった。

効果はすぐには表れなかったが、徐々にレース結果として芽を出してきた。
4月UTMFで29時間完走、7月おんたけウルトラ100マイルでサブ20時間総合6位の結果を残すことが出来た。

特におんたけウルトラ100マイルでは、自分が場違いなほど上位でレース展開を行い、肉体的に辛い場面でもプッシュし続ける精神力がついた。今までは辛い場面になると楽なペースに逃げ込んでしまいがちだったが、レースを戦うための大事な気持ちを身につけることが出来たと思う。

気持ちだけではどうにもならないが、気持ちが欠かせない場面がきっと来る。

■当日の装備



















いつもの野人装備。
そして食糧と水は以下の通り。

食糧 1個あたりkcal    個数       合計
エナジージェル 165 12 1980 kcal
アミノバイタル 18 16 288 kcal
トレイルミックス 160 2 320 kcal
スポーツミネラル 10 6 60 kcal
メダリスト 53 5 265 kcal
しそ梅 49 1 49 kcal
OS1ジェル 10 2 20 kcal
      2982 kcal


     リットル    個数         合計
ハイドレ(メダリスト) 1.5 1 1.5 リットル
ボトル(メダリスト) 0.6 2 1.2 リットル
OS1ジェル 0.2 2 0.4 リットル
3.1 リットル

レース前にOS1のペットボトルを1リットル飲み干し、体内水分を確保。
Ultraspireのボトルホルダー付ウェストベルトは迷った挙句使わず、薄いベルトに変更。

■目標タイム




















目標はサブ10。
だけどサブ10ペースギリギリで行くと全く余裕が無くなるので、保険を掛けて9時間45分切りのペースを設定した。また、今まではCP毎の設定タイムしか出していなかったが、kegさんのハセツネ攻略マップやナミネムさんのアドバイスを元に主要ポイント毎までブレイクダウンした。
第2CPの月夜見までは脚力を温存し、後半攻めまくる戦略。ただし、もともとのペースが速いので月夜見までの設定タイムも過去最速。いずれにしても、自分にとってはレース全般気を抜くことが出来ない設定となっている。

■レース前

野人の仲間とレース会場の体育館で合流。
今年はチームウェアで参戦することが出来、皆で盛り上がった。
思えばもともと、年1回ハセツネで出会う仲間の輪が徐々に広がり、日本野人の会というチームとなった。だからハセツネにはみんな特別な思いがある。




















他にも体育館には多くのトレラン仲間がおり、お互いの健闘を誓い合う。
会う仲間会う仲間から「絞ったなぁ」と言われた。そう言う皆も相当絞れている。
皆がハセツネに向けて照準を合わせて来ていることをひしひしと感じた。

12時、スタート1時間前になると、それぞれの目標に向かってスタート地点へ向かった。

■レース展開
1.スタート→浅間峠(22.66km)
13時、号砲とともに選手がスタートラインから雪崩出した。
幸いにも前方に位置することが出来たので、スタートからのロスは30秒ほど。

歓声に包まれながら、選手の間を縫うように先を急ぐ。
ここから今熊神社まではダッシュ区間。スタート地点から右折し暫くするとOSJのドン、タッキーさんがいた。お互いのサブ10達成を誓いつつ、先を行かせていただいた。

身体が軽い。アスファルト区間は飛ぶように走る。みんなダッシュに近いペースで走っているのだけれども、それでも周りが自分の後方に吸い寄せられていく。

今熊神社に到着。
ハイカーの方が教えてくれた順位によると100番手あたり。スタートの混雑から抜け出し、だいたい順当な位置に来たと思った。
今熊神社に入ってすぐのトレイルでは、左右の分岐がある。右は本線で混んでいて、左は尾根で走れる数百メートルの区間。毎年右側を走ってしまい歩きを余儀なくされるのだけど、今年もまんまと無意識に右側を選んでしまった。気付いた時には既に遅し。尾根を走る先ほど追い抜いたランナー達に再び抜かれてしまった。自分、学習してないな。。。

小刻みなアップダウン、急登とランナーに揺さぶりを掛けるようなコース。
今まで自分が苦手としていた急登、膝に手を当てそう悪くないペースで登る。

ここでチーム100マイルの庄司さん、小林さんに遭遇。
急登なのに負荷が全くないような軽やかな足取りで上空まで登って行く。さすが馬力が違う。

入山峠(7km)到着。サブ9.75目標:0:53、実績:0:48。
5分貯金。いいペースで入ることが出来た。



















市道分岐(11.7km)から醍醐丸(15.29km)までの区間は、フラットな路面から始まり急登。
例年ペースが鈍る場所なので、意識してペースを落とさないようにする。
第2CPまでは脚を温存、勝負はこれから。

醍醐丸(15.29km)。サブ9.75目標:1:52、実績:1:57
いきなり5分のビハインド。サブ10目標の通過タイムも1:55だったので焦る。

次の第1CP浅間峠(22.66km)までには何とか巻き返さないとならない。
去年の自分より10分速いペースで進んでいるものの、これがサブ10の厳しさか。。

ジェルを30分おきに少量飲み、水分を補給する。
天候は思ったほど暑くない。トレイルに入ればむしろ涼しいほどだが、補給は腹が減る、喉が渇く前にこまめに採る。

巻き返しを図るべくペースを上げる。
心拍数は145bpm程度。ペースを上げても心拍は上がらない。余裕がある証拠。
浅間峠に到着。サブ9.75目標:3:01、実績:2:54
なんとか軌道修正。区間タイムを細かく設定したお陰で早めの対処が出来た。



















CPからの登りでは多くの方から応援をいただいた。
ハセツネには食糧エイドはないけれども、応援は何よりも有難い気力のエイドだ。

2.浅間峠→月夜見(42.09km)
この区間のポイントは三頭山(36.32km)までの登り。
タイムチャートに記載した通り、辛いのを耐え忍ぶ区間。
ここでペースを維持できないとサブ10は夢の彼方へ消え去ってしまう。

喰らいつくように走った。
苦しい登りを歩かず走る。
鏑木さんからアドバイスしてもらった「膝を曲げない登り」を意識しながら。
でも出来てるような出来ていないような。
会得と言うには程遠い状況だが、それでもペースは維持出来ている。

三頭山(36.32km)到着。サブ9.75目標:5:02、実績:5:03
なんとかオンタイム。昨年の自分より30分速いペース。

ペースが速いと苦しさが増す分、苦しむ時間も短い。
昔は三頭山までの登りは、延々と続く無間地獄のように感じていたが、それとはだいぶ違う感覚だった。サクッと苦しみサクッと終わる。そう考えると多少なりとも気が楽になった。

ここからは下り基調。
手を抜いてる訳ではないけど、下りは昨年から大きな進歩はない。
もともと下りは得意分野だったが、歳をとって捻挫が怖くなったせいか、身体が固くなったせいか、今はドタバタと無様な走りをしてしまう。

ここ数年は登り克服に注力して来たので、下りの強化はまた今度。

大きなペースアップもロスも無く、第2CP月夜見(42.09km)到着。サブ9.75目標:5:54、実績5:58

ここからは御前山(46.57km)、大岳山(53.71km)と二大ボスとの戦い。
目標達成にはさらなるペースアップが求められる区間。
しかし、ここで大いに苦しむことになる。

(後編に続く)

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