2013年5月13日月曜日

第2回 ウルトラトレイル・マウントフジ

2013年、100マイルレースの第1戦は「第2回ウルトラトレイル・マウントフジ(UTMF)」
昨年、第1回UTMFので初の100マイルレースに参戦してから今回が3戦目となる。

※レース2時間前に撮影。TBRCわっしーさん、野人の松林さんと激走を誓う。

■3度目の100マイルを前に
昨年のUTMFでは序盤から腹を下してしまい、レース前半の80kmを耐え忍ぶ展開。
後半持ち直したもののタイムは33時間43分27秒。
初100マイル完走で達成感こそあったものの、もっと上を見たいという思いがあった。
昨年はUTMF、そして八ヶ岳スーパートレイルと2度の100マイルレースを経験し、今年は満を持しての出場。とカッコよく言ってみたものの、2回も走ればいろいろ失敗もある訳で、3回目のレースは同じような失敗は繰り返す訳にはいかない。

そんな中、注意したことと言えば...
1)前回のUTMFでは会場の水道水を飲んで腹を下したので、水道水は飲まないこと。
2)八ヶ岳では脚痛が辛かったので、痛み止めのロキソニンと胃薬を常備すること。
3)3月のIZU TRAIL JOURNEYではハンガーノックを起こしたので、1時間おきに補給を怠らないこと。
4)最近ふとした拍子で足首を捻挫し、そう言うときは決まって足前方で着地しているので、足全体での着地を心掛けること。

痛い目にあったことは二度とやりたくないので、そんな失敗経験を教訓にしてUTMFに臨んだ。

■目標
目標は30時間切り。
距離は昨年より5km延長され156kmから161km、累積標高は600m増え8,530mから9,164mに。
数字を見る限りはハードルが高くなったように見えるが、今年はレース最難関の天子山地がレース前半にやってきてなおかつ天子山地の距離が半分になっている。
100km以上走ってヘロヘロな状態でここを登るのと、疲労の少ない前半で登るのとでは肉体的以上に精神的に違う。でも今回のレース後半に来る杓子山をはじめとした急登も侮れない。
いくつか読めない要素があるけど、過酷なレースになることだけは間違いない。

<第1回UTMF高低図>



















<第2回UTMF高低図>

















<コースマップ>
























■レース展開
<レース直前>
レース前は雨が降ったり、しまいには雹が降り出す目まぐるしい天気。
太陽が隠れるとかなり冷え込んだので、スタート地点から雨具のバーサライトジャケットとCap4をフル装備で着込む。スタートは15時、これからは夕方になると寒くなるから厚着してもちょうどいいはず。1週間前の太郎坊に降った雪のことを考えるともっと寒くなると思い、急遽ストームクルーザージャケットも追加で収納。
しかしレース直前になると一気に晴れ出し、完全に裏目に。
スタート地点の混雑では脱ぐ余裕も無く、15時00分、そのままスタートとなった。



























※この頃はまだ寒かった。。。

<スタート~A1鳴沢氷穴(11.04km)>1時間26分(貯金16分) 区間106位

▼いきなり失敗!?
強い日差しが暑い暑い。
早く上着を脱ぎたかったのだけど、7リットルのパックに多めの食糧や衣類を詰め込んだためパンパンで、走りながらうまく収納することが出来ない。スタート直前にストームクルーザージャケットも追加したものだから、さらに物理的な余裕が全くなかった。
仕方がないので手に持ったり腰に巻いたりして足和田山を通過。
全くもってミニマルスタイルじゃない過剰装備。

「備えあれば憂いなし」も度が過ぎれば、「備え過ぎて憂いあり」になってしまう。
いつも多めにパックしてしまうどんぶり勘定はどこかで改めねば、といきなり後悔から入る始末。
入れ過ぎた荷物をドロップ出来るまであと78km。はてどうなることやら。。

<A1→A2本栖湖スポーツセンター(23km)>2時間34分(貯金59分) 区間101位

▼野人 ランデブー走行
鳴沢氷穴から本栖湖スポーツセンターまでは下り基調のロードが続く。
同じ野人の松林さんと並走する。
ロードを嫌うトレイルランナーは多いが、私は比較的ロードが得意なので大歓迎。
それは松林さんも同様。
腕を振り、体をやや前傾にすると勝手に脚が前に進む。完全なエコドライブモード。

途中、チーム100マイルのTOMOさんとちえこさんから声援をいただく。
A2付近でDMJ齋藤さんにもお会いすることが出来た。
これは俄然気合いが入る。

まだ序盤戦なのでペースは上げずに闘志を内に秘めておく。いつでも取り出せるように。
走れるコースではあるけど、走り過ぎない。
走れていても1時間毎の栄養補給は忘れないようにした。

プッシュしたい気持ちを抑えてジェルをチューチュー、ペースを整える。
松林さんのペースが速く、徐々に置いて行かれる。
それでも目標タイムを1時間近く速いペースでA2到着。それほどペース上げたつもりはないが速過ぎ。。。
ほとんど体力を使わずに順位を上げることに成功したからまぁいいか。

そして本栖湖スポーツセンターでは洋さん、サメさん、菜穂子さん、石井さん、八巻さんにお会いすることが出来た。




















昨年この場所では鹿カレーが振る舞われていたが、今回は無かった。
まだ23kmしか走ってないのでがっつり食べるつもりもないのだが、鹿カレーが食べられないのはそれはそれで残念。。。
後から聞いた話では、ここに精進粥があったらしい。食べたかったなぁ。

<A2→W1麓(36km)>4時間42分(貯金55分) 区間217位

▼登りの始まり
この区間は竜ヶ岳(1,445m)のピークハント。
500mを一気に登りそして下りる。
ここからA4富士山こどもの国までの約55kmはストック使用可能区間となる。

UTMFの数か月前、ストックの使用については全面不可の情報がHPで発表されていた。
昨年はそのような規制は一部区間しかなかったのでかなり慌てた。
ストックなしで天子山塊を脱出出来るかそればかりが本当に不安だったけど、途中から規制緩和されたので心底安堵した。

つづら折りの坂を登り山頂を目指す。
ストックを使って登ると、脚の負担を軽減出来るので本当に有難い。
しかし、ストックが若干身体に対して長いような違和感がする。
ストックに付属しているグリップベルトを巻くと非常に窮屈なのだ。注文した時にサイズ間違えたか?
あまりにも気になるのでグリップを短めに持ち替えた。
野球で例えるなら「バント」(苦笑)

これで多少は違和感がなくなった。かわりに手が擦れてマメが出来てしまったけど。
とは言っても自分の登りはストックを使っても遅いことには変わらない。
数十人にパスされる。見事な抜かれっぷりに自分でも苦笑い。まぁ想定通り、先は長いので無理はしない。

竜ヶ岳登頂後は急な下り。
ストックを前面に突き出し、四本足の動物のように進む。

「F◯ck!!」

前方で野獣のような雄叫びがした。
どうやら外国人ランナーが急な下りに悪戦苦闘してるらしい。
追い抜く時、腹いせに襲われるんじゃないかとちょっと怖かったが、僕の肩を叩いて親指をあげた。たぶん、グッドラックと言う意味だろう。ホッとした。

竜ヶ岳を下ると10kmほどガレ場を下る。
見たことがあるランナーがいるかと思ったらシロッピさん。
初100マイル参戦ということでボチボチ行くとのこと。
力のあるランナーなので、ボチボチが相当速くついていけない...(苦笑)





















<W1→A3西富士中学校(54.9km)>9時間25分(貯金12分) 区間232位

▼最初の難関、天子山地
ここからはいよいよ天子山塊。そして夜のステージが始まる。
昨年は100km走った後に天子に入り、丸々10時間掛かった。今年はレース前半にあるのと毛無山を登らず迂回するため、多少は楽になったはず。
が、そこは天子。厳しい登りであることは間違いない。

ストックを頼りにパワーウォークで標高1,605mの雪見岳を目指す。
自分としてはパワーウォークのつもりでも、順位後退の流れは止まらない。これが実力というもの。
今まで坂ダッシュして登坂力アップを目指して来たが、まだまだ板に付いていない事を実感した。
まぁ脚力がないだけで身体中のエネルギーは充実しているので、めげずに登る。


ここでアクシデント発生。
ジェルを詰めたチューブがないのだ。

チューブにはハニースティンガー5個分を入れていたのだが、半分ほど飲んだところで落としてしまったようだ。食糧の替わりはトレイルミックスや羊かんなど豊富にあるので心配ないが、山を自ら汚してしまった事が非常に申し訳ない。。。

これ以降は、トレイルミックスを主食にすることにした。
ドリンクボトルに詰め食べるときにボトルキャップを開けるので、下りで食べると外に飛び散ってしまう。そのため登りになってから食べるように気を付ける。
ナッツの程よい塩分とレーズンの糖分が口当たり良い。これはハマりそうだ。

チーム100マイルの庄司さんが後方から登ってくる。
他のランナーと話しながら軽快な登り、ぐんぐん先を行く。
さすが、登りの出力が高い。

終始無理せずマイペース。
熊森山、長者ヶ岳、天子ヶ岳を越え、深夜0時26分、A3西富士中学校到着。
でも30時間切りの目標に対して55分あった貯金が12分まで減ってしまった。

<A3→W2粟倉(64.4km)>11時間00分(貯金8分) 区間41位

▼快走、送電線
荷物がドロップ出来る富士山こどもの国まであと25km。 
自分の場合、荷物が足りないから補充するというよりも、最初に持ち過ぎたから減らすという意味合いの方が強い。食糧も消費量の1.5倍位多く持ち過ぎてたし、防寒対策に追加したストームクルーザージャケットは無用の長物だし。

ここから粟倉までは送電線沿いの小刻みなアップダウン。若干の登り基調。
深夜帯で睡魔が襲ってくる時間なので、眠気覚ましを投入する。

他のランナーの感想を聞くと、送電線区間は山に登る訳ではないのであまり人気がない。
でも個人的には走れるから好きな区間。緩やかな登り下りは勢いで全部走れるので、そのまま走り続けた。途中、滝川さんとshinyaさん、jetさんをパス。
急登では到底抜けないランナーばかりだが、ここはボーナスステージと思って先を行かせていただく。

眠気覚ましのお陰で幻覚に襲われることなく、2時、粟倉通過。
後から知ったことだが、区間41位と自分にしては上出来なタイムだった。

<W2→A4富士山こどもの国(79.3km)>13時間4分(貯金21分) 区間110位

▼ロードでは走らない訳にはいかない
粟倉を抜けると、ロードと砂利道の区間に入る。
真っ暗な砂利道を緩やかに400m登りながら、富士山こどもの国を目指す。

夜明け前で精神的にダレてしまいそうな時間帯。
気を抜くと歩いてしまいそうになる。腕で力いっぱいストックを押し込み、4本足で前進させる。
ここで歩くのと走るのとでは大きく違う。

登りでいいパフォーマンスを発揮できない分、こういうところで取りこぼさないように走ることが大事。そんな風に言い聞かせた。

4時4分、富士山こどもの国到着。

ドロップバック。
ここでようやく事前に預けて置いた自分の荷物(食糧や衣類等々)を受け取ることが出来る。
また、不要になった荷物をここで回収することも可能となる。

自分は荷物が足りないというより、スタート時点で積み過ぎた。
防寒具として積んだが不要だったストームクルーザーとスポーツ羊かんをドロップバックの袋に戻す。代わりに、アミノバイタルを追加補給する。
荷物の入れ替え作業をしている最中、チームぴれきちの晴実さんから汁物、フルーツ、ドリンク剤などをもてなしてくれた。時間を効率的に使うことが出来て本当にありがたい。
もし、自分が選手として走らなかったら、選手のためにサポートすることが出来ただろうか?そう思うと頭がさらに下がる。

ここには先行した野人の松林さんが休んでいた。
両脚が攣ってしまい、思うように動けないとのこと。前半の快走が負担を掛けてしまったのか。。
レースはあと80kmある。チーム2人でUTMFに参戦したので、なんとか一緒にゴールしたい。

エイドで長時間座ってしまうと走りたくなくなってしまうので、20分ほどで出発した。


<A4→A5水ヶ塚公園(88.8km)>15時間12分(貯金19分) 区間66位

▼2日目の朝
夜のステージが終わり、外が薄明るくなってくる。2日目の朝が始まった。

こどもの国を出発すると次のエイド 水ヶ塚公園まで約10km。
登り基調の砂利道とトレイル。

栄養と気合いを蓄えられてたので、登りだが足取りが軽い。
夜通し来ていたバーサライトジャケットも脱いだ。

トレイルの多くは追い越し禁止区間。
道幅が狭く追い越しは危険なのでそのようになっているのか。
だが幸い、80kmを過ぎたレース中盤ではランナーもまばら。
ランナーに詰まる事もなく区間を通過することが出来た。

6時12分、A5 水ヶ塚公園到着。

エイドでは、チームすぽるちばののりさん、しんさん、ナミネムさんが僕を迎えてくれた。
「飲み物どうぞ」
「座る?」
「うどんいる?」
「唐揚げ足りてる?」
と、食糧や飲み物、休憩場所等と何から何まで気遣っていただいた。

今回唐揚げは持参しなかったが、いつか本気でパックに詰めたいと思った(笑)
エイドで仲間に会えるのは精神的に大きく、毎回エイドに立ち寄るのが楽しみだった。

<A5→A6富士山御殿場口太郎坊(95.9km)>16時間53分(貯金24分) 区間295位

▼登りの実力
水ヶ塚公園から富士山御殿場口太郎坊まで、距離は7kmと短いながら、その半分3.5kmは走行禁止区間。走れないので徒歩である。徒歩、これが意外と曲者なのだ。

標高差200m程度の登りで決して急ではないものの、徒歩の速度が人より遅い。
走れないと諦め半ば休息するつもりで登っていたこともあるが、ずるずると何人にも抜かれた。
基本的な登りの徒歩が出来ていないことをこれでもかと思うほど痛感させられる。




















富士山の砂礫を走り抜け、7時53分 A6 富士山御殿場口太郎坊到着。
後から振り返ってみると、この区間は295位とダントツに遅かった。

<A6→A7すばしり(105.3km)>17時間51分(貯金57分) 区間56位

▼快走、砂礫地帯
太郎坊からすばしりまでの区間は自衛隊の演習場を通り、ロードを駆け下りる。
ここでようやく100kmを超える。

A3→W2の送電線区間もそうだったが、緩やかなアップダウンのある地形は比較的得意。
下りの勢いを維持したまま登ることで終始走り続けることが出来た。
先行していたjetさんや滝川さんに再び追いつく。

何となく自分の特性というものが見えてきた。良くも悪くも。
この区間で9人抜くことが出来た。

ロードに入ってからは直線的な下り。
先行していた外国人ランナーに追い付き追い越すがなかなか離れない。
結局、並走しながらキロ4分台で駆け下りた。

8時51分 A7すばしり到着。
エイドでは、すぽるちばの進さん、小川さんTBRCの佐藤さんが出迎えてくれた。




























※内臓は超元気。十分戦える。

<A7→A8山中湖きらら(121.7km)>21時間9分(貯金50分) 区間155位

すばしりのエイドでコーラやバナナ、磯辺焼きをごちそうになり、栄養満点。
600mlのボトルに並々コーラを補充し、いざ出発。

エイド毎にボトルにコーラを補充する。
コーラは炭酸飲料、走っていると当然揺れるので炭酸が噴き出す。
ボトルが膨張し、コーラが漏れ出す。そして飲もうとすると炭酸が一気に噴き出し手がベトベトになる。それでも旨いから毎回コーラを補給している。
ダイエットコークなんてお呼びじゃない。普通のコーラがいい。

▼追い込めない弱さ
すばしりから山中湖きららまでの区間15kmは、三国山などを登るトレイル区間。
苦手な登り。こんな時にストックを使いたいところではあるが、残念ながらストック禁止区間である。

膝に手を置きパワーウォークするも、100位以内のこの順位帯では相対的に遅い。
ずるずる抜かれていく。
踏ん張ってついて行こうという気持ちはあるが、追い込んでいけない。
精神的にアクセルを緩めてしまう。まだ勝負所じゃないと。

体調は十分良いけど、追い込めない精神的な弱さがある。
自分のできるパフォーマンスで何とか凌いだというのが正直なところ。

切通峠を下りてから約3kmはロード。
体感的には5km以上ある炎天下の長い道のり。
でもここで歩くわけにはいかない。登りが弱い分、平坦路では妥協するわけにはいかないのだ。
それが精一杯の意地である。

12時9分 A8 山中湖きらら到着。

エイドでは、TBRCの仲間がSTYを終えて応援に来てくれた。
みんな走ったばかりだというのに疲れた素振りを見せず、僕を元気づけてくれた。






















※TBRCのみんなと一枚。本当に感謝!

<A8→A9二十曲峠(127.6km)>22時間43分(貯金35分) 区間173位

▼睡魔との戦い
二十曲峠まではたった6km。
されど石割山を500m登る苦手なピークハント。

登りに入る手前のロードでjetさんと合流。
どうやらシューズが足に合わず痛みがあるらしい。
ちょうど痛み止めのロキソニンと胃薬を持っていたので、jetさんにお渡しした。

自分も八ヶ岳で足を痛めたとき、岡野さんからロキソニンと胃薬をいただいたことがある。
困ったときはお互い様。この後jetさんは復活されたので本当に良かったと思う。

昼間の直射日光と食後の満腹感、そして120kmを過ぎて出てきた疲労からか眠気が襲ってくる。
夜のステージでは眠くなる前に眠気覚ましを飲んだため、目が冴えたまま走り抜くことが出来たが、
やはり身体が眠くない訳はない。
例えて言うなら、徹夜明けの昼間に来る眠気と同じ。登りながら寝落ちしそうになる。

眠気覚まし二度目の投入。
多少は眠気を抑えることが出来たが、眠気覚ましの副作用か胃腸がどんより重くなるが仕方がない。

男女一組でサロモンの外国人選手が私を追い越す。全くついていけない。
30時間切りするための貯金は50分あるので、遅いなりにもペースを維持していけば大丈夫、そう思ってここも凌いだ。


















登りの弱さをこれでもかと言うほど思い知らされる。

13時43分、A9 二十曲峠到着。

<A9→A10富士小学校(142.8km)>25時間45分(貯金34分) 区間98位

▼自分というもの
最後の難関、杓子山。
これまでの登りとは違う厳しい登り。

手足を使って岩場をよじ登るような箇所がいくつもある。
しんどくて叫びたくなる気持ちも通り越して声も出ない。
ただひたすらに無表情に登っていく。

後ろから追い上げる選手に抗う余裕なんかも全くない。自分の行けるペースで進むしかない。

補給はうまくいっており、身体のエネルギーはまったく枯渇していない。ただ登りが遅いのだ。
下りになればペースを上げることが出来る。
そう思いながら、惨めなペースで登っていく自分を肯定していた。

登っている最中、ウルトラトレイルに必要な筋力には3つあることをしみじみ思った。
ひとつは出力、ひとつは持久力、ひとつは耐久力。

出力は、登りで身体を引き上げる力。低速ギアとでも言うべきか。
持久力は、長時間身体を動かし続ける力。
耐久力は、着地の衝撃に耐える力。

自分には出力がない。だから登りで後れを取る。
だけど持久力と耐久力にはある程度自信がある。

去年から、さんざん登りが弱いことを痛感したので、坂ダッシュで脚力を鍛えてきた。
でも結果が出るのはまだまだだということを実感した。

今は自分の実力で勝負するしかない。

杓子山らしき頂に辿り着く。
しかし、どこを杓子山の名前が入ったネームプレートがない。
ここが杓子山ではないのか。。。

さらに先に進み頂に着くが、ここも杓子山ではなかった。
そんなことを三度も繰り返し、四度目の正直でようやく杓子山に到着。
山頂かと思わせぶりな偽山には本当、心が折れそうになった。


















杓子山山頂に着くとここからは急な下り。
急だけど走れないことはない。

これまで我慢の展開だったがようやく力を出せる。
見晴らしの良い尾根道を脱力しながら駆け下りていく。

ロードに入る。ロードも下り坂。
去年のUTMFは逆回りなので登り坂だった。
勢いに任せて走り抜ける。

アスファルトに着地すると強い衝撃があるものの、大腿四頭筋がしっかり衝撃を受け止めてくれている。脚の耐久力では負けない。

16時45分、A10 富士小学校到着。
ラスト20km!

エイドでは、すぽるちばのみなさん、TBRCの堀田さん、ぴれきちの晴実さん、ハリ天さんハリマネさんにお会いすることが出来た。
最後の力水をいただいたようで俄然気合が入った。




























※TBRC堀田さん撮影。ありがとうございます!

<A10→GOAL河口湖八木崎公園(161km)>

▼追われる意識
出発して間もなく、のりさんがわざわざ追いかけて来て、現在の順位を教えてくれた。

実はこの時初めて知ったのだが、どうやら総合90位前後あたりとのこと。
今まで順位はあまり気にしておらず30時間切りだけを目標にしてきたが、思いがけない順位にプレッシャーが掛かった。
タイムは絶対的だが順位は相対的。最後の区間でスパートをかけてくる選手もいるだろうし、やたらに後ろが気になってしまう。
A10で合流した山口さんの後を追って走っていたが、いつの間にか見えなくなってしまった。
地力が違う。

この区間はストックが使える。
霜山の脇道を登る緩やかな道。ストックで地面を引っ掻くように進んだ。
前方には数人の選手が。自分のペースの方が上回っており、視界にいる選手を皆パスすることが出来た。
それでも、後方から抜かれるのではないかという不安は消えない。

トレイル区間を終え最後のロード。
もう下るだけかと思ったが、曲がりくねりながらもロードをしばらく登ることになる。
後ろばかりが気になっているので、早く楽になりたい、登りが早く終わって欲しいとばかり思っていた。
コースのスタッフの方に「登りはまだか、登りはまだか」こればかり聞いていた気がする。

時刻も18時台になると、空気が冷えてくる。
ロードに入ると意外と風があり、ノースリーブとアームウォーマーだけでは寒すぎる。
せっかくなので野人ウェアでゴールしたい気持ちもあったが、ここで低体温症になったらお笑い草。
やむなくバーサライトジャケットを着ることにした。

完全に日が落ちると、河口湖周辺がライトアップされる。
建物の照明。ようやくゴール地点に帰ってきたことを実感する。

下りに入ってからゴールまで約12km。実は結構長い。
坂を下り切り、浅間神社に到着。

あと何kmなのか各所に立つスタッフの方に聞くものの、誰も「分からない」と答える。誰も。
誘導係をに担ってはいるが、ゴールまでの距離を誰も把握していないようだ。
何人からも聞かれているようで、質問に対しては即答だった。
知りたい答えが分からないことで、恥ずかしながら苛立っていた。

時計を見ると19時台。
もしかすると28時間台でゴール出来そうな時間帯。
ゴールはまだかまだか。やたらに時間が気になる。

ゴールまで5kmは切っているだろうが、正確に距離を知りたい欲求は満たせず、悶々としながら走り続ける。レース中最初で最後の悪態だったと思う。

河口湖大橋で一人パスして、再び河口湖沿いを走る。
そろそろゴールなのだがなかなかゴールさせてもらえない。
もうすぐ29時間。。。

ようやく見慣れた風景が見えてきた。
待ちに待ったゴールゲート。

TBRCの仲間がゲート沿いで出迎えてくれた。ハイタッチ。
無意識に持っていたストックを高く突き上げ、ゴールラインを通過した。



























タイムは29時間27秒。総合77位、男子70位。
28時間台には僅かに届かなかったが、目標の30時間切りは達成することが出来た。
順位の目安として、上位10%以内に入ることは何となく考えていたが、それも実現することが出来た。

■レースを終えて
食糧の補給が功を奏し、終始危なげないレース展開だったと思う。
レース前半の荷物過積載もあったが、それを積めるだけのトレーニングはしてきた訳だし、レースを左右する大きな問題ではなかった。
今年から取り組んできた坂ダッシュによる登坂力強化は、残念ながらまだ登りで力を発揮出来ないことも十分に分かった。
一朝一夕では力にならないこと、でも少しずつではあるが確実に力にはなっていることを感じた。

危なげない展開だからこそ、多くの場面で無理をしなかった。
その判断が良かったのかどうか未だに分からない。

とは言っても100マイルを走っていると辛い時が必ず来る。
そんな時、エイドで仲間の顔を見るたびに走る勇気が湧いた。
そして、会えずとも遠くで応援してくれる仲間の顔が浮かんだ。

自分はまだまだ発展途上の身。
貪欲さがあればまだ上を目指せると思った。

■レースダイジェスト
<タイム・順位>

<食糧消費状況




<装備>




















※総重量4.7kg
 水2リットル、これに加えてストームクルーザージャケット。過積載であった。